埼玉県和光市の及川社会保険労務士事務所

炭研精工事件disciplinary-action-4

(東京高判平成3年2月20日)

経歴詐称は懲戒解雇事由に該当するのか?

【概要】
 Xは公共職業安定所を通じてY社の求人に応募した。その際、履歴書には最終学歴を高卒と記載し提出した。
ところが実際には、私立大学に入学しており、除籍退学となっていたので、最終学歴は“大学中退”であった。
さらに、Xは成田空港反対抗争に参加したときの公務執行妨害等の公判が続いており保釈中なのにも関わら
ず、「賞罰なし」と記載し、面接でも賞罰はないと答えていた。
採用後も、Xは軽犯罪法違反や公務執行妨害罪で逮捕され、欠勤していた。
 Y社は経歴詐称や無断欠勤等が就業規則上の懲戒解雇事由に該当しているとしてXを懲戒解雇した。
Xはこの懲戒解雇の無効を求めて訴えをおこした。

【判旨】
Ⅰ. 雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者の相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契
  約関係であるということができるから、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対
  し、その労働力の評価に直接かかわる事項ばかりでなく、その企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企
  業の信用保持など企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合に
  は、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負う。
Ⅱ. 最終学歴は労働者の労働力の評価に関わるだけなく、Y社の企業秩序の維持にも関係する事項であることは
  明らかであるから、Xは、これについて真実を申告すべき義務を有していたということができる。
Ⅲ. 履歴書の賞罰欄は、一般的には確定した有罪判決をいうものと解するべきであり、公判継続中の事件につい
  ては判決が言い渡されていないことが明らかなので、採用面接時に賞罰はないと答えたことは事実に反する
  ものではなく、面接中に公判継続の事実について質問を受けたこともないし、Xから積極的に申告する義務
  があったということも相当とは言えない。

【解説】
 この判例は“経歴詐称”による懲戒解雇であるが、じつは批判もある判例です。
まず、“高卒”を採用条件にしているところに“大学中退”の人が応募するという逆詐称だが、これにより企業秩序
を侵害するといえるのかは疑問と言えます。
さらに、入社後、相当期間勤務しているという事実もあり、それなのにもかかわらず、採用時の詐称だけを理由
に懲戒解雇とする妥当性にも疑問があると言えます。
この事案自体は疑問があるものですが、応募の際の経歴や賞罰を偽って採用された場合に、これを理由に解雇す
ることはよくあると言えます。
その際には、今回の判例を鵜呑みにするだけでなく、”偽った情報により被った被害”というものをしっかりと
提示し、補強することをおススメしますし、何より争いに発展しないよう、一定の能力以上の人を雇いたい、や
人となりを見たいと考えた場合、試用期間を設けるなどを視野に入れていただいた方がいいと及川は考えます。

なお、本判決では判決が確定していない公判については、”賞罰なし”と答えても問題はないと判じ、労働者
側から積極的に言わなくても、問題ではないといっている箇所は注意が必要かと思います。


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